山に囲まれた鳴守の地に伝わる、まことしやかな噂がある。
ひとつ、
深夜零時に白縄神社の鳥居を潜ると、誰か一人がいなくなる。
ふたつ、
開発区の工事現場がずっと完成しないのは、奉ってあったお社を壊した祟り。
みっつ、
八坂屋敷の森に無断で入ると、必ず麓の県道に出てしまう。
よっつ、
新月の夜に上津橋を渡る時、振り返ると鬼に遭う。
いつつ、
白縄川の流れには、地図に載ることのない名も無き橋がある。
むっつ、
ヨルサカサマに逆らうとバリバリと喰わされる。
ななつ、
――――――――――――――――
―――― 以上、鳴守六不思議。
それは夏の夜の夢から始まった。
欠けてしまった夢の中で覚えているのは、ほんの僅かな○い思い。
吊り橋が揺れる対岸で、真白の髪の彼女が寂しげに微笑んだ。
伝えなければいけない言葉を捜しているうちに、ふと目が覚めてしまう儚くも血に塗れた夢。
夢が意味することが何なのか、それすらもわからぬままに、主人公は夏の巡りを夢で知る。
ようようにして思い出せたのは、ミズハという少女の名前。
歪なその夢は、年月を重ねるごとに鮮明になっていた。
何も知らず、何もわからないまま、主人公は日々の日常を生きていた。
屋敷を取り仕切る咲月は相変わらずの様子で愛想もなし。
新しい家族の奈緒は世間知らずで恐いものなしで、少し危なっかしい。
少し普通とズレた、そんな日常の温かさ。
――― それが、いつまでも続く本当なのだと思っていた。
九天の空に鳴り響く花火の音は、在ったはずの日常の終わりを告げる。
辿り着いた夜の底で、主人公が見る色は誰の色なのか ―――
人と妖の戦いの最中へと主人公は足を踏み入れた。