主人公は、都心の大学に通う二年生。
信州の山奥にある久坂村。そこの倉木家を訪れるところから話は始まる。
彼は幼少の頃から、養父母に預けられ育てられていたのだが、その養父母が事故によって死に、その遺言によってこの地を訪れた。
彼にはごく親しい人々以外には、秘密にしていることがある。
それは原因不明の精神的外傷のせいで、「女性の顔が全く覚えられない」ということである。それは実家である久坂村で体験した「何か」が原因であるということは、薄々分かっていた。
そのトラウマが原因で、主人公には「女たらし」という不名誉な噂がたっている。
主人公はこと女性に関しては「来る者は拒まず」というスタイルをとっていたからだ。 彼は女性関係に現実感覚を持てないことから、逆に寂しがりやになっていたのである。
さて、主人公は実家に対し、良い思い出はない。
彼が覚えている実家の風景は、自分が外で遊べず、軟禁状態だったということである。
だから彼は、実家に帰るつもりなど無かった。
そんなある日、養父母が死んだ。
彼らは自動車事故で死んでしまった。最近見る様になった奇妙な夢の原因について、そして最近見るようになった、ある「悪夢」の原因について尋ねた矢先の出来事だったので、彼は嫌な気がしていた。
そして葬儀の場、彼は倉木本家の人間に再会する。
春川一平という本家当主の主治医、そしてその孫娘の春川知美。
主人公は彼らと弁護士の口から、自分が養父母の遺言により、本家に戻らなければならないのだと知らされた。
奇妙な感じ。
だが主人公は、それでもあくまで「挨拶に行く」程度にしか考えていなかった。
自分が運命の岐路に立たされているとは、全く考えていなかったのである──。