鉛色の暗雲が流れる下で大型馬車が複数走っていた。馬車の中にはグリンナーズ王国の騎士達が乗っている。その栄誉ある王立騎士団第一攻撃隊の隊長のダース。彼は先だって行われた御前試合にて優勝を飾り部下を連れ凱旋帰郷を果そうとしていた。
しかし、彼の心中はあまり晴れやかとは言い難い。実を言えば騎士団に入団して1ヶ月あまりの新米騎士。御前試合にしても突然乱入してきた武装集団に決勝を争う予定だった前隊長デニスが殺され、残された彼が優勝者となり隊長職も引き継ぐ事となった。他の騎士達はその場で武装集団を返り討ちにした彼の優勝に異を挟むものは無く、その戦い振りは最若で隊長の務に就くだけの働きは充分と認められてもいる。
だが、彼にしてみれば、殺されたデニス前隊長も不意打ちでなければ、あんな奴らにやられたりはしなかったはずであり、実際に彼とデニス前隊長が剣を交えれば五分以下の戦いだったとしか思えない。しかし、回りは不幸な事件を吹き払うかのように、慌しく動いた。就任の儀が執り行こなわれ、気がついた時には「第一攻撃隊隊長」の肩書きが与えられ、その事の是非を考える暇も無い程のスピードで騎士団の祝杯を浴び、慣例となった凱旋帰郷の為の派手な大型馬車まで用意され、…こうして、途方にくれている。
その馬車の中でも、自分が『グリンナーズ一の剣士』みたいな顔で、故郷タラトに戻っていいものか…と未だに、うつうつと考えていた………。