───【園田財閥】。
園田グループと呼ばれる一流企業が築き上げ、国内で五大財閥と謳われるほどまで成長を遂げた財閥の一つである。
その園田財閥の総帥【園田 栄一郎(そのだ えいいちろう)】が危篤状態に陥ったという悲報が届いた。
───いや、むしろ『吉報』といった方が俺にとっては正しい。
現総帥が居なくなれば、その後継者が必要だ。
つまり、財閥の実権を握り、地位・名誉・金の全てを手に入れる機会が到来したという事である。
若輩でありながら園田財閥の理事にして、財閥内でも高い影響力を持つこの俺【藤堂 晃(とうどう あきら)】が、総帥の座に着く時が来たのだ。
「───組織内では既に後継者を選抜する動きがあります」
【園田栄一郎】危篤の報を告げに駆けつけた俺の優秀な部下が、言葉を続けた。
「ククッ───まだ存命中だというのに、不義理な連中だな」
予測通りの動きに、思わず笑いが込み上げる。
同時に、選抜の候補に名乗りを上げる者、それを担ぎ上げる者、それらの全てが手に取るように読めるというものだ。
「おや、意外な言葉ですね・・・本心からですか?」
珍しくも呆けた顔をする部下から、後継者候補のリストをまとめた書類を受け取った。
「もちろんだ、総帥には世話になったからな───」
数年前まで、俺は園田グループに属する企業の商社マンに過ぎなかった。
無論、ただの商社マンのままで終わるつもりなどなく、ここを起点として上層部まで駆け上がるつもりだった。
園田財閥には『才能を持つ者は取り入れ、財閥の力とする』という方針があり、どんなに顔が利く人物であれ、力無き者は財閥という組織から降り落とされてしまうのだ。
逆を言えば、その方針こそが園田財閥を支える力であり、五大財閥と呼ばれるまで伸し上がるに至った理由である。
徐々に上り詰めていく計画だったが、俺の才能が園田総帥の目に止まり高く評価された事で、異例の昇格を遂げていった。
「総帥のおかげで、予定よりも早くこの椅子に座れたからな───だが、そろそろ新しい椅子が欲しいと思っていたところだ」
「ハハハ、やはりいつもの藤堂さんですね」
ニヤリと笑みを浮かべる俺の顔を見て、部下がいつもの楽しげな表情を見せた。
「そういえば、総帥不在の間は娘さんが代理人となるそうですよ」
「ほう」
総帥の娘か───パーティなどで見かけて少し話したな。
退屈そうな顔をしながら、園田総帥の後をくっついて歩いてたので興味本位で話し掛けた記憶がある。
確かまだ学生だったと聞いていたが・・・。
まあいい───あの女が代理人ということならば、利用しない手はないだろう。
ますます運が向いてきたな。
「さて、後継者選抜に参加する為に、まずはその総帥代理人に挨拶しにいこうか」
部下を連れ、俺は部屋を後にした───。