終戦から10年を経た昭和33年の冬。
日本には特別に売春を許された地区が幾つも存在していた。
その特別地域は警察の地図に赤い線で記されていた事から、「赤線」と呼ばれ、人々の欲望と侮蔑を一手に引き受けていた。
主人公はそんな赤線のうち一つである玉柳に足を踏み入れた少年、如月真之。
国会での売春防止法制定を受け、赤線街はあと数カ月で失われる。
手がかりを失う前にと玉柳を訪れるが、母の手がかりは無く途方に暮れる。
疲れ果て倒れる真之。
そんな彼を介抱してくれたのは、不思議な落ち着きをもった空崎静枝だった。
彼女は玉柳の赤線宿「薫屋」の娼婦。
静枝はこの街で母が見つかるまで真之を保護してくれる事となった。
「薫屋」は玉柳の隅っこで客をとっている赤線宿。
そこは他の赤線宿と違い、のんびりと経営している宿だった。
あけっぴろげで、客をとること以外なにも考えてなさそうな典型的娼婦、来生千尋。(主人公主観)
静枝や千尋を尊敬している、頑張り屋さんな同い年の女の子、小此木楓香。(主人公主観)
娼婦からアガリをとるだけのダメ主人、渡会卓。(主人公主観)
そして「薫屋」に訪れる常連客。
戦後成金で金の亡者、平間直太郎。(主人公主観)
格好良くて頼りになる兄貴分。フリーの新聞屋、方丈恭介。(主人公主観)
彼らは真之に対して時に厳しく、時に優しく、ある時はいがみ合う者同士として、ある時は傷を舐めあう仲として、赤線最後の期間を過ごしていく。
赤線街での日々繰り返される生活と人情と情事。
○○としての無力さと恋を覚え、成長をする真之。
いつしか少年の小さかった手は、大事な者を守れるほどに成長して行く。
そして、真之は母と再会する時、何を思うのか?
彼の手は、いったい何を、誰を守るのか?
赤線の灯が消える、昭和33年の春――
運命の日は静かに迫っていた――