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ある日一人の男が、川の土手にしゃがみ込み、草の穂の踊りをニ、三時間も眺めてから、得体の知れないその海のような土地にのろのろと踏み入った……別に目的があるわけではなかった……仕方なく…ただ仕方なく、ウソウソと歩きまわるしかなかった人々が、昭和二十四、五年頃にはあふれる程居たのである。男はどこからか集めてきたガラクタを積み上げ…家を作った。ヤケクソで這い出てきたキノコのような感じの家だった…(表題作「無頼平野」より)
哀愁に包まれながらもどこか優しい視線で、這いずり回る男たちの苛烈な生を描く、劇画の名手・つげ忠男の傑作短編集!