人と天使。
相容れなぬ2つの存在が重なり合ったのは、人と天使、双方の記憶も曖昧になってしまうほどの昔、神話と呼ばれる古い歴史の中にある。
天使は人に世界の秘密の一部を教え、人は錬金術という学問を得た。
人の知的好奇心は、時間と共に己が人間であることを忘却させ、天使の秘密、即ち不老であり不死である秘密を求めるようになった。
しかし、人間の肉体のままでは不老不死にはなれないと分ってしまう。
それでも愚かなる人間は、天使を捕らえ更に秘密に近付こうと研究する。
神に近付く愚行に加え、天使への蛮行に天は怒り、力を行使する。
現世に受肉する天使から記憶を奪い、たとえ捕らえられたとしても、人間にこれ以上知識を与えないようにした。
その時、神の慈愛、恩恵からも見放され心を蝕まれる天使もいたが人間の欲に対抗し禁断の知識流出を防ぐにはそうせざるを得なかったのだ。
知識をもたらさない天使。それらは一時、役立たずの名称にまでなったが、
1人の貴族が目をつけたのはその美しい容姿であった。
美しく老いる事のない体は好色な人間にとって代え難い宝となったのだ。
が、しかし人間と天使が接するには一つ危険な事柄があった。
ネツィヴ・メラー。
全ての天使が持つ能力、謳う事によって力を高め、天に帰る事が出来る天使は、まさしくその天に帰る瞬間にネツィヴ・メラーを巻き起こすのだ。
嵐のような一陣の風が去った瞬間、周囲のものを全て塩と化し、浄化する力。
通常、心優しき天使はその力をふるう際、何ものも巻き込まないようにしているのだが――
一部命知らずな好事家により汚され、人に憎悪を抱いてしまった天使や心を壊してしまった天使たちにより、度々ネツィヴ・メラーが巻き起こった。
それでもその希有な性の玩具を、手に入れようとする者が現われては金がつぎ込まれ、人の欲が重なり合い、長い時間をかけて様々な道具が作り出され、研究が進められた。
そして、たどり着いた。
真っ白な翼と同じ真っ白な天使の心を快楽と欲情で黒く染め上げる行為、「堕天」。
翼の色が黒く染まる事を嘆く輩もいるものの、ネツィヴ・メラーを防ぐ事が出来た。
美しさを保ちながらも墜ちた天使は、快楽を人間に与え、自らもそれを求める性○○として計り知れない価値を持つものとなったのだ……。