女神エリクシアの加護を受けて、古の邪神を封印・管理する為に建国された王国、ランロッド。
だが、邪神の復活を目論むゾディアックの手により王国は崩壊、邪神は復活するかに思われた。
女神の最後の封印は、その場に居合わせた五人の勇者に加護として与えられ分散してしまった。
そして数ヶ月後、再び邪神を完全に封印するため、五人の勇者はランロッド城を目指す。
だが、それはゾディアックにとって、女神の加護を奪う絶好の機会だった……。
獣人で盗賊のユニは、持ち前の危険察知能力によって、ゾディアックの反乱に気付いた彼女だったが、それを王女イクシアに伝えに行った頃は既に時遅し。
封印が解かれ始めていたのだ。
その時の悔しさは、今でも忘れることが出来ない。
そして、その時に嗅いだ臭いを再び感じ、彼女は緊張を覚えていた。
「ククク……やっと相まみえることが出来たな」
「くっ、ゾディアック!」
ゾディアックを前にした恐怖は抜けないものの、ユニは必死に勇気を奮い起こした。
「や、やぁっ!」
ユニは素早い動きで投げナイフを引き抜くと、ゾディアックの眉間に向けて投げつける。同時に逆手でダガーを引き抜き、ゾディアックの足元を抜けようと走り出した。
「馬鹿め、こんな目くらましが通用するものか」
ゾディアックがそうはさせまいと触手を放つ。
後ろに回した手から投げナイフが飛び出す頃には、ユニは既にゾディアックに触れられるほどの距離にまで来ていた。
「やっ!」
ゾディアックのほぼ真下から、ゾディアックに向けて投げナイフが放たれる。
即座に魔法障壁がナイフを弾き返すものの、視界を遮るには十分だった。
同時にユニは逆サイドへと方向転換し、ゾディアックの横をすり抜けた。
そう思った瞬間、油を撒いた地面に着地したかのように足が滑った。
「やった……ひゃぁっ!?」
なんとかバランスを取ろうとすると、今度は背中に張り付くように地面が盛り上がった。生温かい肉の塊に飛び込んだかのような感触に、背筋に怖気が走る。
慌てて立ち上がろうとすると、両手足は既に何者かに掴まれていた。
「や、やだ、気持ち悪い……離してっ! ボク、美味しくないよぉっ!」
ユニは逃れようと四肢をばたつかせるが、粘液にまみれた表皮からは想像出来ないほどしっかり掴んでいた。
「ククク……イクシアの可愛がった獣人の娘だ。俺も、俺のやり方で可愛がってやるとしようか」