少年という殻を破り柔らかい皮膚を露にした成虫のような危うい魅力と過去を持つ勘兵衛と、マタギのリーダーとして大地と部族のルールに従いながらも人間としての正義も失わない市太郎。この二人の出会いと関係が、幻想物語譚のように展開する魅了の官能小説。
筆者のゲイ官能小説特有の男の性の据えた匂いは態とトーンを落としているように伺えますが、勘兵衛が市太郎や村の男衆、城主紀彰を拒絶しながらもその自尊心や矜恃により受け容れてゆく描写は、ソフトタッチながら新しい快楽の世界が織物のように温に拡がってゆき、率直な表現をとれば、かなり抜ける作品となっていると思います。
歴史的タブーを話中の題材に持ちながらも、決して暗くはなく、物語の底流には、勘兵衛と市太郎のピュアで瑞々しい感情が流れ清々しい印象です。
官能小説としても幻想文学譚としても読め、BLやゲイ官能小説のジャンルに拘らずに楽しめる作品だと思います。続きが楽しみです。