作品説明
この世には光あるところ、影もまた存在するのだ。
そして、眩いほどに神々しい栄光もあれば、どす黒い漆黒の闇に沈む絶望もある。
「トップレスボクシング」
それはいつの頃からか好事家たちの間で有名になっている地下興行。
その名のとおり、豊満な乳房を惜しげもなく晒して戦う女性たちのボクシングだ。
独自に特化されたルールの数々に、敗者へのペナルティ等々。
すでに通常のボクシングとは何もかも違うことは想像に難くないが、出場する女性選手には破格のファイトマネーと、勝者への賞金が用意されている。
しかし当然にそれは、単なる殴り合いだけではないことを物語っていた。
そのようなこともあって、出場する女性たちは様々な理由から――
また、望むと望まざるとを問わず好事家たちを喜ばせ続けているのだった。
そして今日もまた、新たな挑戦者を迎えた地下ボクシング。
会場を埋め尽くす観客の反応は、よりいっそうにその度を増していくのであった…!
*****
夜の地下劇場は、甘い香水と鉄の匂いが絡み合う、濃密な熱気に包まれていた。
赤いベルベットの幕が上がると、より紅く照らされたリングが妖しく浮かび上がる。
今宵の目玉は、所謂「ゴシック・○○○タ」をテーマとした女たちによる闇の拳闘。
まずは参加するだけで支払われる莫大なファイト・マネーに加え、勝者にはちょっとした開業資金には充分なほどの報奨金が用意されている。
『それでは選手を紹介します!まずは、赤コーナー――』
まず先に名を呼ばれたのは、柳六華(やなぎ・りっか)。
長く流した黒髪と雪のような白い肌をあらわにした姿に、黒のガウンだけがゆるやかに羽織られていた。
足元は男と同じボクサーパンツのみという簡素な装い。
それでも彼女はいつもと変わらぬジト目で観客を見渡し、だらりと気怠げに腕を下げている。
だが一度拳を受ければその瞳は愉悦に濡れ、狂気の笑みが咲く――
常連たちは、そのことを知っているのだ。
『続いて青コーナー。初出場選手、黒羽(くろばね)こはく――!』
続いて現れた少女は、肩に届かぬ黒髪に猫耳のヘア・アクセサリを揺らした出で立ち。
同じく素肌にガウンを纏って、リングへと歩みを進める。
ボクサーパンツという無骨な姿と、どこか無理に作った可愛らしさがちぐはぐに映る。
頬には緊張の汗。観客の視線を浴びるたび、喉が小さく鳴った。
……彼女の本名は四之宮 巴(しのみや・ともえ)。
巴は古風な空手道場の一人娘である。
正道を重んじる父の教えの下で育ち、積み上げてきた型と鍛錬。
だが今や維持すらも困難となった道場を救うには、この邪道の舞台に立つしかなかった。
その誇りを守るために彼女は正体を隠し、“黒羽こはく”という仮面を被ったのだ。
そして彼女が選んだ仮面とは、武道とは似ても似つかぬゴス○○姿。
密かな憧れを乗せて可愛く振る舞おうとする声はしかし、どこか硬くぎこちない。
そのうえ全身をほぼ露出して闘うという初めての経験に、やはり全身には嫌な汗が伝っていた。
しかし邪念を全て捨て去ったとき、その双眸には研ぎ澄まされた眼差しが宿る。
それは紛れもなく、武を生きてきた者の目だった。
そして愈々、ゴングが打ち鳴らされる。
……完成された“闇の花”と、“仮面”を被った武の娘。
そして二つの“黒が”、深紅のリングの上で激突するのだった!!