―― 僕の父さんは「桐沢商工」という学校を卒業している。
僕が今住んでいる街から程近いところにあるのも手伝って、おそらくこの街で桐沢商工を知らない人は居ないだろう。
それに、父さんが学生だった頃の桐沢商工はすっごいエリート校で、お金も沢山かかったんだって。
だから当時の父さんたちは、いわゆる「夜間学生」として仕事をしながら学校に通っていたんだ。
でも父さんは、苦労して通った筈の学生時代の頃の話をいつも楽しそうに僕に話してくれた……
それから幾年、僕が生まれる頃には桐沢商工もだいぶん庶民的な学校になった。
時勢がら進学校へ行く学生が増えたこともあって、商・工の学校はあまり人気がないんだそうだ。
でも、僕は○○ながらに決めていたんだ。「父さんと同じ学校へ通おう…」って。
そう、僕の入学を待たずして、病気で亡くなった父の為にも ――
正直、進学校でない桐沢商工は決してレベルの高い学校ではない。
「他に行ける学校が無かったから」とか「卒業後すぐ働かなきゃなんねーし」と、言ったように人それぞれだ。
校舎も昔ながらの木造で、いまだに冬は灯油のストーブを使っている……隙間風の入る教室に、みんなは不満連発だ。
しかし授業は「社会に出て役立つように」といった実践的なものだし、なにより詰め込むような勉強量を施す他校とは明らかに違い、前向きな方針に僕は大変満足していた。
そんなある日、僕が3年生になったばかりの頃だ。
現在の校舎を取り壊し、鉄筋コンクリートの校舎に建て直すと言う話が舞い込んできた。
なにより昭和初期からある校舎だ、老朽化は否めない……しかし来春の入学生の為に完成を目指すとしたら、この校舎の取り壊しはもう目前ではないか!
何より僕達の卒業式はどうなるんだ!?