かの名作『Ever17』にオマージュを捧げた、と明言する本作『デイグラシアの羅針盤』は、そうして自ら上げたハードルを軽々と乗り越えた。
深海の閉鎖空間という舞台設定や、サスペンスフルな展開は否が応でも興奮を煽る。
しかし、既視感があるのはそこまで。
本作は、ノベルゲームでありながらノベルゲームの在り方を問う、いわば「アンチノベルゲーム」。
ノベルゲームのプレイヤーが必ず直面する「ある行為」を、本作は批評的に問うている。
おそらく商業も含め、前例がないであろうギミックには参った。
本作の独自性は、膨大な知識に彩られたシナリオにもあらわれている。
深海、天文、遺伝、文学、自由と平等……様々な分野の知識はそれ単体でも興味を惹かれるが、
巧みに組み合わされることで、どれ一つ欠けても成立しない、類まれなバランスを構築している。
10時間以上に及ぶプレイ時間が短く感じる、密度の高いシナリオを「読むだけ」のノベルゲームだが、
本作の読書体験を通して得るものは非常に大きかった。
読み物として、非常に上質な作品。
同人ゲームやノベルゲームに馴染みの薄いユーザーにこそプレイしてもらいたい良作だ。
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